ずっと、ずっと、嫌いだった。
 自分の事。
 ずっと、ずっと、何とかしたかった。
 どうにもならなかったけど。

   ******

 仮の拠点として決めた此処は、なんとも頭らしく自由を奪われた場所だった。昔から負けず嫌いだった彼だからこそ、自由を取り戻した今、こうしてこの街にいる。
 今はもう大分復興されていたものの、多くの人と物を失った悲しみからか、昔ほどの活気は無かった。けれども、活気と共に古い習慣も消え、新たな街へと生まれ変わっているこの場所は、まるでこの組織と同調しているかのようで少し心地良い。
 それでもやはり人目が気になるのか、頭は海岸に隣する洞窟を拠点とした。不満をぶぅぶぅ溢しながらも、団員は拠点制作に取り組んだ。やはり寝床となる以上必死なのか、手を抜く者が居ず、予定よりもしっかりとした空間が出来上がった。
 そのうちの一つ、大きなテーブルが置かれた部屋に俺はいた。大体の者は食卓として利用するテーブルは、俺にとっては仕事場だった。何しろ机として機能するものがまだこれだけしかないのだから、ここで仕事をするしかない。
 団員が各地に情報を集めに飛び散り、目ぼしい情報を得たらそれを記した物を送る。大抵の場合は用紙に記入されているので(稀にそこら辺で拾った大きめの石に書く人もいるが)、それを広げ情報をまとめる。
 用紙というものも以外にかさばるものなんだな、と山になった紙の束を眺めながら思う。団員数の割には明らかに多い。けれども仕事熱心とは言いがたい。内容の半数は『あそこの酒屋の店員が可愛い』だとか『オリーヴさんに彼氏が出来たらしい!(涙)』とかいう、仕事には関係の無い情報。けれどもこれもきちんと分類しないと、団員からクレームがあがるので別の用紙へとまとめる。
 ふと、人影が現れたかと思うとズカズカとこちらに向かってきて、向かいの椅子にドカと腰掛ける人がいる。
「何だ、おめー。まだ仕事してんのかよ」踏ん反り返るように腰掛けながら(その体勢は逆に辛いんじゃないだろうか)、煙草に火をつける。「おめー、オレが寝る前も仕事してただろ。何時寝てんだよ」
「イザドルさんが寝てる間に」
「オレより早く起きるたぁ、おめー、睡眠時間大丈夫なのかよ。人間っつーのはな、一日九時間以上睡眠が必要なんだぞ?」
「いや、それは何かの間違いだと思います」
 俺が聞いた話では、一日五時間程度だったような。けれども、一日一・二時間の睡眠で生活している人だっているのだから、何時間だろうと寝ているだけ問題無い。必要最低時間の基準も、一日の半分を寝て過ごしているイザドルさんの基準なのでアテにならない。
 ところが、俺の反論が気に喰わなかったのか、イザドルさんはぷはーと煙を吹きかけてきた。
「何するんですか」
「ん? 嫌がらせ」
「大人気ないですね」
「お前が可愛くないだけだ」
 ひひ、といたずらを楽しむ悪餓鬼のように笑うイザドルさん。とても二人の娘持ちだとは思えない精神年齢の低さ。毎度の事ながらそれに呆れたのだが、仕事を続ける事は出来る。
「目ぼしい情報でもあんの?」
 真面目に仕事をする俺を見てか、イザドルさんは聞いた。
「それを判断するのが俺の役目です」
「あっそ」聞いておいてその返事は無いだろうに。そんな思いが顔に出たのか、イザドルさんは言葉を付け足した。「おめー、そうやって背負いすぎなんだよ。ちったぁ、お義兄さんを頼れ」
「おにいさんという年では無いと思いますけど」
「うるせー」
 おじさん呼ばわりはされたくないんだよ、と煙草の煙を吸いながら言った。
 イザドルさんは血縁上は親戚にあたる。俺の母親の兄が彼の立場。けれどもイザドルさんは昔から『伯父さん』と呼ばれるのをかなり嫌がっている。
 最初はそれにショックを受けた。血縁者であるのを拒否されたようで、自分の存在を拒否されたようだったから。けれども、見えないものも見えてしまう自分の能力で解ったのだが、彼は単に年をとっているように見られるのが嫌だったようだ。この時だけは、自分の能力に感謝した。
「で、どうなんだ?」不意にイザドルさんが聞いてきた。「能力(ちから)の方は」
 ありとあらゆるものが見える能力。
 見えないものまでもが見える能力。
 決してこの能力からは逃れられない。
 これは俺の一部であり、その一部が俺なのだから。
 ずっと、ずっと、そう思っていた。
 思い込んでいた。
 そうしなければ、自分の存在する意味が分からなかったから。
 ずっと、ずっと、そう言い聞かせていたのだ。

 それに気付いたのは、エミレィという女性と会った時だった。

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